民家で舞う『大和町大具の当屋神楽』

2020/05/11

 

 神楽と聞いて、どんなものを想像するだろう?

豪奢な衣装に、お面、そしてヤマタノオロチとの大立ち回りを大舞台で舞う様子だろうか。

私も「それが神楽でしょう」と思っていた。

しかし、三原市大和町(だいわ)で見た神楽は全然違った。衣装は軽装で、面をつけず、漫才の様な掛け合いなんかもあり、そして舞台ではなく民家で舞う『当屋神楽』(とうやかぐら)というものだった。

『当屋』とは、神楽を主宰したり世話をする家、家の人の事で、大和町では、地域の行事としてその年の当屋が神楽を自宅で主宰している。

 

私がその当屋神楽を見に行ったのは、昨年11月、神楽好きの知人に誘われて、大和町大具(おおぐ)という地域だ。

この大具では、大和でも珍しくなった民家で行う、当屋神楽の形式を大事に続けており、地域の方々が当屋を輪番制で変わりながら守っている。

時間は夜の7時頃。大和町は雪こそ降ってないですがだいぶ寒い中、向かっていると、提灯やかがり火が煌々と灯り、遠目からもそこが当屋だと分かった。

門から入って直ぐの庭には、ドラム缶に薪を燃やして暖をとり、焼きそばや魚なんかも焼いていて、ちょっとした縁日の様だった。

「こんにちは」とあいさつをしながらお邪魔すると、「よくいらっしゃいました」と出迎えられ、仕出しやお汁等々を出してもらい、丁寧なおもてなしを受ける。

よそ様のお宅にお邪魔しているだけで、ドキドキしているところに、ここまでよくしていただくと戸惑ってしまった。知人曰く、こうして来てくれた人にはおもてなしをするものなのだそうだ。

今年の会場となる当屋は、庭から広縁、そして会場となる客間が続いており、戸も全てはずして、外からオープンな間取りになっていた。

庭では既に、地域の方々が暖を取りながら一杯はじめていて、楽しそうな雰囲気だ。

神楽では、『お花』と言って、神楽を舞う人たちや、関係者の方への感謝の気持ちとしてお金を包んで渡す。お花は祝い袋に名前を書いて渡すので、後に神楽の合間にその人たちの名前が感謝の言葉と共に読み上げられるのだ。私も、当屋の方にお花をお渡しした。初めてなのでなんだか緊張してしまった。

 

そうこうしている内に、神楽が始まった。神楽と言えば演劇の場面が印象的だが、そもそも神様に奉納するもので、演劇の前にも幾つか舞がある。舞台となる客間には、神棚があり、それを正面に、二人舞、四人舞、悪魔祓いと舞って、場を祓い清め、神降ろしするところからはじまる。初心者には、少し退屈かもしれないが、神楽好きはここからもうかぶりつきで見ている。

そしていよいよ『能舞』が始まる。演劇のパートだ。今回の演目は『和霊記』(われいき)。この話は、よくある化け物を人が退治する話と違い、ライバルに暗殺されてしまった主人公が、幽霊となり息子に事の真相を伝え、仇を討ってもらう話だ。

話自体はシンプルなのだが、ここから大和町の当屋神楽と、大舞台で行われる神楽との違いが現れる。とにかく、観客から合いの手が入るのだ。話の合間にふと、登場人物同士が漫才の様な掛け合いを始める場面がある。そこでは、現代のネタや、演者本人のネタ、または観客に話しかけたり何かもする。そうしていたら、観客の方も、演者をからかい、会場がどっと笑いに包まれる。

本編は仇討ちという緊張感のある話から、合間に挟まる掛け合いの緩急が見ていて実に面白い。さっきまで、素の様な話口で笑いを誘っていた演者が、スッと本編に戻ると喋り言葉も侍のそれに変わり凛々しくもなるのだ。

しかし、前もって注意されていたが、時間がどんどん遅くなる。かれこれ4時間経っても話が終わらない。12時をまわったころにいよいよクライマックスで、主人公の息子が見事に仇討ちを打ち、話が終わった。

私は、明日の予定もあり、ここで帰りますと告げると、周りの皆さんから「これから蛇取り(じゃとり)があるのに」と。その『蛇取り』を見ないで帰るなんて、なんてもったいない

と言う風に言われた。

この蛇取りとは、言葉の通り大蛇の首をとる演目で、能舞に蛇取りの場面が無い時は、わざわざ蛇取りの場面だけ行うのだ。そして、それを見ないと神楽を見たとは言えないくらい、それが真のクライマックスなのだそうだ。

私は、皆さんに「残念だ。残念だ」と声をかけられ、そして、今日のお礼を伝えながら当屋を後にした。遠くから、蛇取りが行われたであろう、その日一番の歓声が聞こえた。

 

今回、初めて大和町大具の神楽を見て思ったのは、演者と観客の距離の近さだ。そこに、大舞台の神楽と違う、地域ならではの温かみのある空気を感じた。しかし、ややもすれば、それが内輪ネタ感があり、他所からの人には疎外感を与えそうだが、当屋の方々含めて皆さんが良くしてくれるのだ。神楽の間も、食べ物や温かいお茶や、お菓子を出してくれる。この、分け隔てないおもてなしが、その疎外感を無くしてくれている。

だが、やはり、いきなり初めてのお宅に行く当屋神楽はハードルが高いと思う。私も、次は1人で行けるかと言えば、やはりまた知人に連れて行ってもらいたい。しかし、大和町の神楽は他にも楽しめる機会が色々ある。秋には大和町のあちこちの神社で秋祭りとして神楽が舞っている。そして、11月の終わりには『収剣祭』(しゅうけんさい)として、大和町中の神楽団が舞い納めをする。それは、公民館などで開催するのでいよいよ見に行きやすいだろう。

距離感が近く、テレビなどでよく知られている神楽とはまた違う、大和町の神楽を是非、見てもらいたい。

 

<大和神楽が見れるイベント>

・『だいわ元気まつり』(10月第3日曜日)

・『秋祭り』(秋分の日(11/3)の前の週末か次の週末、もしくは秋分の日当日)

・『収剣祭(しゅうけんさい)』※大和町連合神楽保存会の合同研修会(12月20日頃の日曜日)

  ※子供神楽の収剣祭も別にあります。

・『三原浮城祭り』※子供神楽が毎年出演(11月第1土,日曜日)

 

 

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